2025.12.01
ふと、思い出すと哀しくなる時がある。
人の感覚が鈍くなってしまったのか?
開院して間もない頃、まだ駆け出しで
自家カルテも作ってない時代だ。
一人の5~6歳の女の子を診察した。
外見上はまだ悪くないが、明らかに
肺は大変な状況で肺炎になっている。
無熱性肺炎はよくある。
今のうちに養生すればひどくならずに済む。
私はこまごまと注意をして、その当時は
普通に抗生物質もその他の西洋医薬も処方していた。
明くる日、お母さんから電話があった。
「本人は元気で外に出て遊びたいと言うので遊ばせていました。
夜になって熱が出たので近くの○○先生の所へ行きましたら、
親切にもレントゲン写真を撮ってくれ、肺炎ということでした。
ですので今後は○○先生へ行きます」ということだ。
私は心の中で苦笑いして「いいですよ。どうぞ」と返事をした。
またある時、八百屋さんの店先で、おかみさんが
男の赤ちゃんをおんぶしてお客さんの相手をしていた。
ふとその赤ちゃんの顔をのぞいた私は、
とっさにおかみさんに言った。
「すぐ病院へ行ってください。この子肺炎を起こしていますよ。」
おかみさんはびっくりして「そうですか?」と
すぐ救急病院へ行った。
その後「無熱性肺炎で入院」と知らせが来た。
民間医療、自然療法、おばあちゃんの智慧、
東洋医学、漢方医学、鍼灸など始め
日本医療文化は、経験から始まっている。
まず人の五感をフルに使うことや観察することを教えてくれる。
咳を聞くだけで人体の調子はわかるし、
呼吸一つで重症度も分かる。
顔色、唇の色はもとよりその人のそばにいるだけで
沢山の情報が受け取れる。
だから私は皆さんには近くのお医者さんや鍼灸師等の先生方と
普段から良い関係を持ちなさいとアドバイスをしている。
遠方の名医より身近な普通の医師の方が役に立つ。
医療の理想は「身近で安くて結果が良い」である。
そのためには今のような保険医療制度でなく、
昔のような自由診療が必要である。
ある時、十数歳程の女の子を診て、
私は「小児関節リュウマチ」を疑い、
ある医科大学の小児科の教授へ紹介状を書いた。
私の医局時代の大先輩である。
しばらくして先生から電話があった。
「王君、君はリュウマチというけど検査データは?」
「検査はしていないです、総合判断での結果ですので、
先生の病院で検査して頂こうと思って。。。」
「そんな馬鹿な! 検査もしないで病名付けるな!」
と叱られてしまった。
しばらくして「小児関節リュウマチにつき入院治療します」
と、病院から手紙が届いた。
どうして検査しないと病名が付けられないのか?
普通に日本の医療文化を学習していると、
検査よりもすぐ治療は始められるし、とっさの時役に立つ。
それは先人達の長い間の経験の蓄積があるからだ。
日本は世界にない3~4万年もの医療知識、
智慧のたくわえがある。
日本の一般の人々始め医療者自体が日本の底力を知らないのは
私は「もったいないなあ」と感じているのだ。
その先輩先生とはその後よくおしゃべりするようになった。


