2024.08.19
私にとっては未だに「人というもの」「人の世というもの」
は分からないことが多すぎる。
今回書く私の経験も未だに不思議で納得できていない私だ。
夫は白人で、ヨーロッパから日本へ来て
事業を立ち上げていたやり手だ。
妻は日本人の素晴らしい女性。
私はその夫婦の娘を幼いうちから診ていた。
3人はとても仲良く見ていてほほえましい。
女の子は英語も日本語も堪能である。
きちんと教育できる経済力もあったのだ。
数年してある日の事、妻は哀しそうな顔をして来院した。
唇に水泡が出来ている。
「これが出来たので、夫に酷く責められています。
『許せない! 病気持ちというのを俺に隠して結婚した。
離婚する。そばに置いておけない。すぐ出て行ってもらう!」
とすごい剣幕です。」
私が診た限りでは単純性ヘルペスで一般に
「口唇ヘルペス」と呼ばれるものだ。
普通によく見るものだし免疫力が落ちると出やすい。
漢方薬でよく治療するし、もちろん食養生、養生、
ストレス軽減が大切である。
「私にとってはよく診るありきたりの病状ですが、
治療するなら私はこのようにします。でもご主人に
納得していただくには大きな病院へ一緒に行って、
説明してもらう以外ないと思います」
と自家カルテに色々書いて、公立病院への紹介状を書いた。
病院側も私と同じ診断名で「さほど深刻な病気でもない。
普通の人でも80%ぐらいはこの単純性ヘルペスウイルスHSVを
抱えているし、みんながみんな症状出るわけでない。
免疫低下で症状は出る。」とのことだった。
次も一人で来院した妻はもう普通になり口唇も何ともない。
でも夫は納得できなかった。自国で身内に医師がおり、
「ウイルスという敵を抱える家族がいるのは、
いつ自分が感染させられるか分からない」と言われたそうである。
結局離婚は成立、妻は家を出てアパートに移り、
娘さんが高校生になるまではということで
夫の仕事を手伝うことで収入を確保した。
それから時間が経ち娘さんも海外の高校へ行くことになり、
夫はそのまま一人暮らしで、妻は実家のある地方都市へ
戻ることになった。最後にあいさつに来た妻は
少しやつれてはいたがそれでも美しいかただ。
妻も語学力がある人だったので、今はきっとそれなりの
場所で頑張っておられかわいかった娘さんとも
うまく連絡を取り合っているだろうと想像している。
それにしてもウイルスとはそんなに
目くじら立てるモノなのか?
まったくの素人の私には理解出来ない事だ。
帯状疱疹は多く診察していたし抗ウイルス剤は
ほとんど使わなかった。漢方薬、民間療法、食養生法を
利用する方が病後が良かった。
書物には「子どもに初めて感染した時は水疱瘡として出現、
大人になって帯状疱疹として出る。子どもには帯状疱疹は出ない。
大人でも一度帯状疱疹になると、その後繰り返すことは無い」
などと書いている。でも現実はそうでもない。
子どもの帯状疱疹もあるし、水疱瘡そのものが
大きくなってから2回目が出たということもある。
そして帯状疱疹そのものが繰り返し出現する人もいるのだ。
一人70歳代男性で帯状疱疹後神経痛で自死した人もいた。
今までの総復習をしているが、鍼灸で帯状疱疹後の神経痛を
治療したという症例報告が『医道の日本』誌にあった。
日本医療文化にはなんでも対応あるのだが、
医師も一般人もあまり知らない。
もったいないなぁと今更ながらに思う。