何の病状であっても、病人は全身で一つと考え仕事をするとよいのですが、私達が受けた医学教育は蘭学(今でいう西洋医学)だけなので、診察する医師はややもすれば呼吸器の症状だからとその部分に限って診断を付けようとします。
人の身体は「全身で一人」です。ですので精神面も含めて、頭のてっぺんから足の先まで考えに入れないと誤診をします。一時専門家というのがもてはやされたのですが、今は総合医のほうが重視されています。「病人を本当に自分の目で確認する」必要があり、医師は時間をかけてじっくり病人と向き合う必要があります。ただしこれもケースバイケースで、その時、その人に合わせる以外ありません。
症例① 12歳の女の子
私が校医をしていた時に診た小学6年生の子です。ある日曜日の夕方、急にお腹が痛くなりお母さんと休日診療へ行きました。当直医はベテランの外科医でした。特に発熱もなくお腹を診察しても盲腸炎でもありません。「もう少し様子を見ようね」と帰されました。
そして月曜日の朝早い4時頃、「お腹が痛くて死にそう」と冷や汗をかいています。すぐに大きな公立病院へ行きましたところ、入院検査で「膿胸」の診断が出ました。これは膿汁が溜まる重症な病気です。もちろんすぐ手術になり、抗生物質の点滴もされたのですがもう手遅れで、数時間もしない朝7時には死亡と診断されました。
症例② 微熱の50歳代の男性
私は彼が肺結核であることを疑い、公立病院の呼吸器科へ送りました。胸のレントゲン、CTスキャン、血液検査などいろいろ調べてくれました。元気そうで食欲もあり「異常はありません」と診断されました。本人はその日の内に帰宅しました。
しかし7日後に「少し疲れる感じ」とのことで、もう一度同じ病院、同じ呼吸器科へ行きました。次に診た医師は首をかしげて「おかしいなぁ。必要な検査は全部しているけど何もない。せっかく来たんだからお腹のCTでも撮るか?」と追加で検査しました。そうしたらなんと、左側の腎臓が癌で今にも破裂しそうなのです。おしっこの検査にも引っかからず、血液検査でも何もない。肺もきれいでした。即入院手術し、癌細胞がお腹の中に散らばる前に摘出できました。
「お腹をドラム缶と思えば肺はその蓋ですよ。ドラム缶の中で臓器のどれかに火がついていたら蓋がガタガタ鳴るでしょう? 肺が内臓の異常を訴えるのです。」先輩の漢方医が教えてくれました。